穂積『式の前日』①

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まるで純小説を読んだかのような読後感。

2013年の「このマンガがすごい!」に選ばれた穂積さんの「式の前日」。マンガでの表現を最大限に駆使しながらも、読者にストーリーの余白を与える空間づくりはまるで小説の手法にも似ているように感じます。

『式の前日』は全七作の短編集。今日は最初の二作品についての感想を雑駁ではありますが、述べたいと思います。

 

「式の前日」

一軒家に二人の男女が時間を共にしています。題名の通り、女性の結婚式の前日のお話のようです。

男性は二十代半ば。女性の年齢は最初明かされていませんが、二の腕の太さを気にしたりするところから、少し年上なのかな?とも連想させます。

明るく、曇りなく、屈託ない二人の関係性は垣根のないような親密さを感じさせていますが、どこか寂しさがあるのは、彼女が明日には結婚するからなのでしょうね。

手をつないで寝て、涙する女性に「泣くとブスになるよ」と男性はぶっきらぼうに笑います。

最後に、幼いころに両親を失った姉弟であることが分かります。

たった二人きりの家族が結婚する。

姉が結婚することで、たった二人の家族のかたちが変わっていく。姉弟離れ、という言葉では言い表されない別離と繋がりを感じました。ああもう涙。

余談ですが、家族って選ぶことが出来なくて、当たり前のように関係性が続いていくわけです。でも、実は家族が一緒に日常としてご飯を共にするのって、ひとりの人間の人生の時間のなかでは限られた時間なのではないでしょうか。

家族と過ごす日常の最後の一日、この二人のようにかけがえのない時間を噛みしめることができる人たちが多いと幸せですよね。

 

「あずさ2号で再会」

この本のなかで一番好きなお話です。もう涙無くしては語れない!!!

ちっさい娘と、娘に「前科ある」と冗談言われるお父さん(ほんとに前科ありそう)のお話です。

 

お父さん、離婚したのかな。。。。なんだかそんな雰囲気のある二人の会話。

でも、どこかお父さんはお母さんに未練がある様子。娘はそんなお父さんの体の心配をしたり、妙に大人びていて、そしてとてもお母さんに似ていてお父さんを戸惑わせます。

 

でも、どうやら違っていました。

お父さんは「あずさ2号」に乗って娘に会いにきたのです。

「あずさ2号」と書かれた茄子で作られた馬の人形。それは大昔から、大切な人を亡くしたひとたちが、その人が唯一戻って来るお盆にあわせて用意する乗り物です。

お父さんが住んでいるところに遊びにいきたいといった娘に、「絶対ダメ」と拒否したお父さんは、もう亡くなっていたんですね。

死んでしまったお父さんの娘を想う気持ち、お母さんをひとりの女性として心配する気持ち。

娘――あずさのお父さんへの愛情。大人びた雰囲気は、母子家庭だったからなのかもしれません。

そして、顔も出て来ないお母さんから感じるお父さんへの愛情。満面の笑顔を遺影に飾っていて、そして娘がお父さん大好きっ子で。そんな家庭の雰囲気は、お父さんのことを愛していなければ出て来ないものでしょう。

 

お父さんが死んでいることに関して、言葉では特に何も語られないにもかかわらず、いたるところに家族の愛情を感じ取ることの出来るお話でした。読み終って、もう一度読み直してみると、全てのセリフの温かみに涙が止まりませんでした。

 

ええ話や。でも、それを伝えきれない私の文才にも涙がちょちょぎれるぜ……。

 

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