漆原友紀『蟲師』9 ⑥

51Xfj3k517L[1]

「草の茵」

一話完結の物語の『蟲師』のなかで、唯一といえるくらい時系列が分かるこちらのお話。「眇の魚」の少年ギンコの誕生から、現在の蟲師ギンコに至るまでの間のお話。ちょうど、「草を踏む音」の回想に出てきた少年の少し後のお話にあたります。

 

舞台は光脈筋の豊かな山里。山のなかで蟲にわっさわっさまとわりつかれた白い髪の少年を里の蟲師、スグロが拾ったところから物語が始まります。

 

白い髪に緑の隻眼、そして蟲を寄せる少年の噂は蟲師の間で広まっていたんですね。スグロはそれまで様々な蟲師と旅をしていた少年のことを知っていました。

少年は「草を踏む音」同様、どこか達観したような、少年らしい明るさも持っていない感じ。でもそれもうなずけるような少年の暮らしぶりが本人の口からさらりと語られてびっくり。

 

少年は、蟲を寄せる体質を利用され、一か所にとどまり、それによって蟲わずらいを起こしてそれを蟲師が治す、というまるで悪徳な商売に使われていました。何人もの蟲師の間でやりとりされているのは、あまりに蟲を寄せすぎて蟲師の手に負えなくなって放置されるから、とのこと。良く今まで生きて来れたな、という感じです。

 

そんな風に利用されては捨てられてきたから、こんなに諦観しきったような感じなのね…。

 

しかしスグロは今まで彼が出会ってきた蟲師とは違うようですね。少年に飯をやり、光脈筋の山を見せて回り、里の人たちには「弟子」として紹介して……。美しい山と里を愛で、ひどい境遇にある少年に対して大げさに同情するでもなく、遠ざけるでもなく、生きていく術を教えようとする姿はあたたかなものに映りますね。

 

しかし少年ギンコのなかには、自分は世界にとっていらないものなのだ、という感覚がある様子。スグロのもとにいる間中、ずっとヌシに見られているような感覚を受け続けます。その視線を「監視」と受け止めて、害をなす前に立ち去らなければいけないと思います。スグロたちの美しい山も、自分の居場所ではない、自分のいていい場所ではないのだと。

 

この段階の少年ギンコは、蟲師ギンコの価値観とは全く違うものを持っていて、自分の存在意義を否定的に見ていてとても切ない。少年がどんな風にその価値観を変化させるのか。それに関しては次回!

コメントは受け付けていません。

サブコンテンツ

このページの先頭へ