漆原友紀『蟲師』5 ⑤

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「暁の蛇」

春のうららかな陽気のもと。桜が咲きほころぶ川を渡す舟。そこで渡しをしていた少年カジに出会ったギンコは、カジの母親さよの相談を受ける。

 

彼女は日常の出来事をいつからか、とんと忘れるようになったのだという。食べ物のこと、くしゃみのこと、カニのこと、そして妹の事。物忘れが激しいというレベルではなく、進行形の記憶喪失のようだ、と見立てるギンコ。

彼女は日常の些細なことを忘れていっている。もちろん、息子のカジのこと、旅商人をしている旦那のことは忘れていない。

 

夜もほとんど眠らないというさよを、夜通し見張っていると、夜明け前。ほんの数分眠ったさよの中から黒く大きな影のような蟲が出てくるのをギンコは見つけた。

 

「影魂」という蟲に寄生されている、というギンコ。宿主が死なないように、日常の生きるために必要なものや繰り返し思い出している記憶などは残しておき、あまり使わない記憶を優先的に食っていくという影魂。

 

毎日色んな人と接することで記憶を増やすことを勧めて、親子のもとを去るギンコ。また一年とたたないうちに親子のもとをたずねてみると、母親も甘味屋で働くようになっていた。色んな人と楽しそうに話しており、「相変わらずだ」と話すカジ。

 

ただ、それまでの間に大変なことがありました。

ギンコの話を聞いて思い切ったさよは、カジと一緒に父親を捜しに旅に出ます。お父さんがよく話していた町がある、とそこに行ってみると。なんと父親はそこで新しい家族を作って幸せそうに暮らしていました。

 

それを見て父親に抗議しようとしたカジをとめ、無言で帰路につくさよ。数日ろくに睡眠も食事もせずに、道の途中で倒れて長い間眠ってしまいます。

 

そして朝方。蟲の出ていく大きな気配をカジでも感じた朝。さよが目覚めると、旅に出ていたこと、父親の事、それらを全て忘れていたのです。

 

それでも明るく元気な母は変わらない。それを聞いたギンコは「相変わらずだな」と言います。カジも「相変わらずだよ」と。

 

そして。帰ってこない父に対して、食事を一人前多くする習慣。それだけは繰り返すさよ。カジがどれほど「いつも1人分多いよ」と言っても、「あらほんと。なぜかしら」と首を傾げるさよ。

 

「相変わらずだよ」と返したカジの言葉の抑揚(アニメですが)や、父のお膳を見るカジの表情から、形容しがたい複雑な思いを感じます。

 

さよはきっと忘れることで心が壊れるのを防いだんですね。蟲に寄生されてなければ、きっとさよは生きていけなかったでしょう。でも、さよが忘れて捨て去ったその記憶と感情の一端を、カジは一人で抱え続けていくのでしょうね。

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