漆原友紀『蟲師』3 ③

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『蟲師』第三巻のなかで、というよりも、蟲師のお話のなかでずば抜けて「何じゃこりゃ」と思った回、「重い実」。

このお話で語られる問題についてもううん、と唸るものでもありましたし、ギンコの態度があまりに横柄、というかお節介というか、立ち入ってはいけないところまで立ち入っていて、ギンコに少し腹も立った回。最後の結末には「まじか」って感じでした。

 

大天災に見舞われたとき、その里では何故か豊作となる。その豊作は先祖の恵みだとされているが、その先祖は代わりに「一人連れていく」のだそう。

ギンコが訪れたときも、その奇跡的な豊作があったとき。

里の人びとは「誰かに瑞歯が生えればその人は連れて行かれる」と恐れていた。つまり、豊作がおこれば、誰かが犠牲になってしまうのだと。

 

その話を少年から聞いたギンコは、瑞歯を代々管理している「祭司」に会うことにする。祭司、と呼ばれる男にギンコは「ナラズの実」を探している、とかまをかけます。

ギンコ曰く、「瑞歯」とは、「ナラズの実」。蟲師の最大の禁忌である、光酒の悪用の結果のものだという。それは命そのもの。それを土に埋めれば必ずその土地は恵みがもたらされる。しかし、犠牲者は必ず出る。

 

そんなものは知らないとしらをきる祭司に、ギンコは問いかけます。

 

「――あんたならどうする?ひとつの命で多くの命を救える実が手の内にあったなら……」

 

 

男は「使うだろうな」と答えます。一人の犠牲で、多くの命が救えるのならば、と。ギンコはそれに反対のようで、犠牲者は強制的に贄にされる。それを許して良いのかと。ならば、里を一年離れるなりして、皆で命をつなぐほうがいいと。

 

もちろん、里を離れる、という決断は里人には苦渋の選択です。一度離れてしまえば、そこに戻らない者も戻れなくなる者も出てくる。それは、共同体の解体と同じ事。同じように皆で暮らしていくことができなくなる。

 

ギンコの提案は、男にとってはあり得ない選択。

 

それでも、ギンコが里の人に事情を話して田を焼くことを勧めようとしたとき、男はやめろ、とついに瑞歯のことを認めます。そしてその直後、倒れてしまいます。

 

一度、二十年前に瑞歯を使い、奥さんを亡くしたという祭司。しかし瑞歯をもう一度使うことができると思い保管し、今年使ったのだと。

 

つまり、瑞歯が生えるのを己にするように根回しすることで、誰の犠牲も見ずに豊作をもたらせると。

 

結果、ギンコは彼の身のうちを暴き立てた詫びに、と最大の禁忌を犯します。

男が死んだ後、男からこぼれ落ちた瑞歯を再度、彼の体内へと送り込むことで、彼を生き返らせた。

 

そして男は不老不死の身体を手に入れて、農法をその里にもたらすような人物となったと。

 

 

今回のお話は、冒頭で言ったような「一人の犠牲で多くの命が救えるならば」という答のない問答。そしてギンコのとてつもない介入の仕方。禁忌のおかしかた。

 

そして、不老不死を手に入れた男のこと。

 

色々とヘビーでいつも以上に考えさせられるお話でした。

 

ギンコは第1話の「緑の座」のレンズばあさんを蟲にしたことを「良かったのかどうかわからない」と言っています。きっとこのことも、禁忌だからどうの、というよりも「あの男を不老不死にしてしまって良かったのか。それは彼にとって良いことだったのか」を自問しそうだな、と思いました。うん。

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