漆原友紀『蟲師』2 ②

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「筆の海」

 

前話の「やまねむる」で、ギンコの在り方に不安を覚えたんですが、今回の「筆の海」で「なんやお前、いい人いるんじゃねえか!良かった良かった!!」と思いました。笑

 

まさかの淡幽お嬢さんの登場です。まさかまさか、蟲師にこんな可愛い女性がギンコの傍らに登場するとは!

 

と思っていたんですが、なんだかそんなロマンスあふれる単純なお話でないところも『蟲師』。

 

『蟲師』の物語のなかで、唯一組織的なものとして想定され、描かれる薬袋一族と狩房家。蟲との在り方も、他の人びとやギンコとは一線を画している印象です。

 

その昔。生命を滅ぼさんとした禁種の蟲。それを封じた薬袋一族と、その身に蟲を封じた狩房家。そこから両一族の関係が始まる、と。

 

狩房家には何代かに一人、墨色の痣、つまり禁種の蟲を体に住まわせた者が生まれる。その者は、その蟲を封じるためにその身と生の時間を費やさなければならない。その方法は、蟲を屠る体験談を執筆する、ということ。そのために、薬袋一族は蟲師として生きて蟲を屠っていく。

 

そして四代目の筆記者――淡幽。

 

しかし彼女は「蟲に体を侵触されながら、蟲を愛でつつ、蟲を封じる」人。蟲を殺すことをいとわない蟲師たちとのやり取りに疲れ果てた彼女にとって、ギンコは自分と心を同じくする者として大切な存在なんですね。

きっと、それはギンコにとってもそうなんでしょう。

 

二人の様子から、とても心を許しあっている関係性が読み取れるし、淡い恋心のようなものを感じる気もする。

 

でも、そうした恋愛関係に収斂していかない有様が一方である。

 

定住できない故か、あまり人との間の距離感を縮めないギンコと、その距離感を保ちつつ彼の話、彼だけができる話、彼の存在を求める淡幽。

 

そして、狩房の秘書(そしておそらく淡幽の知識)を必要としながらも、自分と同じように蟲に浸触されながら、蟲を愛で、蟲を封じる彼女との交流も楽しんでいる様子のギンコ。彼女のささやかなワガママを全て聞き入れながらも、彼女の身の上に同情するでも、彼女をそこから解放するために蟲殺しの話を増やすでもなく接する。

 

話の終わり、「お前と旅がしたい」という叶わないだろう夢を語る淡幽に、「生きていたら」と承諾するギンコ。

 

軽い言い方で明日の死の覚悟を語るギンコに、「それでも生きてるんだよ」と言う淡幽とのやりとりに、彼らの心のふれ合いを感じることができます。

 

恋愛という形で言うことも可能でしょうが、私はそう言い表したくない気分になります。恋愛関係や夫婦関係のように、共に時間を共有することはほとんどできないけれども、お互いの言葉と己に向けられる感情が、それぞれを生かしている関係。化野先生やクマドの存在をみるかぎり、それは唯一の関係ではないかもしれないけど、とても得難い貴重で大切な関係性。女性の作者だけが描くことの出来る、とても素敵で曖昧な関係性です。

 

この二人の心の有様は同じなのに、全てにおいて対照的に描かれているところがまた素敵。

男と女。生きるために生きる人、宿命のために生きる人。白と黒。定住できない人、外に出れない人。

漆原さんの絵では、二人が語らっている場面や、お互い顔を見れない背中合わせに近い形で描かれていますが、そのままの関係性に思われます。

 

 

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