穂積『式の前日』③

mangazenkan_si-823[1]

さて、『式の前日』最後の感想をいきましょう。

 

「夢見るかかし 後編」

兄のジャックは、田舎を出てからニューヨークに住んでから十年。自分の居場所を見つけて、毎日を忙しなく、有意義に過ごしていたんですね。そんなジャックのなかで、置いて来た思い出が、田舎の妹だったんですね。

妹のどこまでも無邪気でわがままなお願いにも、絶対にきいてしまうのは、やっぱりたったひとりの妹だからでしょうね。

ベティの笑顔をみて「とっとと幸せになっちまえ」と笑うジャックの笑顔がとっても切なくてステキです。きっと兄妹のかかしは、本当に「お母さん」だったのかもしれません。差出人不明のハガキに誘われて、妹の結婚式に帰って来たジャックが、妹を橋にして田舎の家族や妹との新しい家族と、新たな関係を築いていくような未来が思い描けるラストでした。

とってもあたたかくて、少しだけ切なくて、でも後味のとっても爽やかなお話でした。

 

「10月の箱庭」

こちらはうってかわって日本。主人公は売れない小説家のおじさん。おじさんの家に転がり込んで来たらしい親戚の娘だという女子高生。なんだか美味しい関係性ですが、前回までの話と違ってちょっと雰囲気が怖い。

カラスがいるからでしょうか。誰にも看取られずに死んだカラスが、おじさんの夢出て来てくるから、なんだか怖い。

おじさん、なんかカラスに憑りつかれてるんだろうか……。そう思っていたら、まさかのラスト数ページで大どんでん返し。

カラスは死ぬ間際、誰にも看取られずに死ぬことを悟った時に、「寂しい」と思ったそうです。そこでいつも木の上から見ていた小説家のことを思い出したのは、カラスが大空をひとりで楽しんでいたときから、小説家の孤独に共鳴していたんですね。

最後のセリフ、「誰かに愛されようとしなくてもいい。まずはあんたが誰かを愛せばいい」。

 

なんていいセリフ。小説家のラストの笑顔が、初めて人間らしく、優しく微笑んだのがとても印象的でした。

ホラーかと思ったら、やっぱりヒューマンドラマ!この話とっても素敵。。。

 

「それから」

最後はこちら。猫目線のお話。なんだか最初の猫の独白「先日男に拾われた。……人間は不可解な生き物である。そして失礼な生き物である」や題名の「それから」。雰囲気的に夏目漱石を想起させるような始まり。

主人公の猫は、、、猫らしい性格のようです。鳴いた自分に対して男が腹がへったのかと声をかけると、「この男は私が鳴くのはすべてメシの催促だと思っている。阿呆だ」。

このセリフでノックアウトされました。

いやでも、なかなか自堕落な格好で「にゃー」って鳴かれて、それが家族の緊急時を知らせるためのものだったなんて。猫の独白「私は伝言を聞いたものとして、一応の努力は、した」ってあくびしながら言われてるのが分かったら、いったん放り投げるわ。

でもやっぱり穂積さん。最後の最後で、猫の心配していた気分や緊急時の内容など、とっても素敵にしめくくってくれました。猫かいたくなりますね。

コメントを残す

コメントを投稿するにはログインしてください。

サブコンテンツ

このページの先頭へ